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広域科学科紹介

嶋田 正和 (2005年度 広域科学科長)

広域科学のすすめ

広域科学という言葉はあまり聞いたことがないとお思いでしょう.実際,インターネットで検索してみても,ランクの上位に出てくるのはこの東京大学教養 学部の広域科学科に関連するページばかりです.他の大学で広域科学科という名前の学科を持っているところはないらしい.その中で,広域科学科出身ですでに社会で活躍している人たちのページがぞろぞろと見つかるのは,頼もしい限りです.皆さんもたとえばGoogleで試してみてください.

さて広域科学というのは,科学の広い領域にまたがる学問分野という意味です.この学科には,広域システム分科と人文地理分科という2つの分科があります.広域システムは対象をシステムという視点から捉えることを特徴とするもので,対象となるのは情報システム,工学システム,社会システムといった人工的なものであったり,宇宙システム,生命システム,生態系といった自然システムであったり,さらに両者の複合化した環境システムであったりします.その意味で,まさに「学際的」であり「総合的」であることを特徴とします.一方,人文地理はより歴史のある学問分野であるとはいえ,本来,地域的また文化的に広い領域を扱ってきたまさに広域的な学問であり,さらに人文社会科学的なアプローチと自然科学的なアプローチとがともに大切な分野といえます.

広域科学科が育成しようとしている人材は,「システム思考」を自分のものとする人です.そのためにはさまざまな方法論を学び駆使できるようにすることと,対象となる自然や社会のシステムについて深い知識を獲得することの両者が必要です.そのためにカリキュラムに工夫がこらされています.たとえば広域システム分科では,方法論としてシステム理論,システム数理,情報システム科学,計画論などの科目群が用意され,対象系の知識習得のためにエネルギー・物質・生命・生態・地球系などのマクロな自然科学の科目群が用意されています.人文地理分科では文化地理学,都市地域論,農村地域論,世界地誌などの人文地理学の幅広い科目とともに,統計資料分析,文献・情報探索などの分析技法の教育にも力を入れています.さらにどちらの分科でもフィールドワークを大きな特徴としており,実際に野外に出かける実習が組み込まれています.

なんだか広すぎて茫洋としているという印象があるかもしれないので,もう少し具体的な話をしてみましょう.たとえば進化という概念は重要です.ダーウィンによる生物の進化論は現代のDNAレベルの遺伝子生物学でも本質的なものとして受け継がれていますが,それと並行して文化社会現象の進化,宇宙の進化,ソフトウェアの進化,など多様な対象の進化プロセスに関し,そこに共通する原理と異同を考えることができます.このような見方とそれにもとづく新たなアプローチの探求は,まさに広域科学科が得意とするところです.

広域科学科は各学年の学生数が20名足らずとこじんまりしている一方,教員数は教授から助教まで合わせて約40名で,少人数教育と学生教員間のきわめて密な接触を可能にしています.そこで学生からも「生徒の数より教官の数の方が多いという状態なので,卒業研究では生徒一人にほぼ一人教官がつく.それで滅茶苦茶丁寧に指導をしてくれる.」という声が出ています.

教える教員の方は多様な方面の専門家たちです.その研究分野を説明するために大きく自然体系学,生命社会学,情報システム学,複合系計画論という4つの領域に分けていますが,各自の領域が固定的なものというわけではなく,また複数の領域にまたがった仕事をしている人が少なくありません.しかし,広域科学という確立した学問分野がまだあるわけではなく,したがって教員の専門分野は「広域科学」であると簡単に答えるわけにもいきません.むしろこの学科に入ってくる学生諸君がこれらの多様な領域を自由に行き来し,教員とともに明日の広域科学を作っていく,という気概を示してほしいと思います.その意味で知的好奇心に満ち満ちた人を求めます.

卒業生は広域科学科の上につながる総合文化研究科広域システム科学系を初めとする大学院に進学する道と,製造業,官公庁,国際機関,シンクタンク,商社,金融機関,マスコミなどに就職する道とを選び,「システム思考」能力を発揮してそれぞれ活躍しています.

(教養学部報 第474号より)