21世紀に入って以降、人類そして地球の未来に悲観的な見方が広がっているように見えます。資源の枯渇、環境の汚染・破壊、世界総人口の増大と先進国での減少および高齢化など、多くの問題が複合化し、また顕在化しているのは確かです。一方で、歴史を振り返ってどの時代に生まれたかったかと聞かれれば、現代と答える人が、少なくとも今の日本では圧倒的に多いようです。今の社会がさまざまな問題を抱えることを認識しながらも、そこに肯定的な面をわれわれ多くが見ているとしたら、未来の人類や地球に予想される困難な問題に立ち向かい解決を志すことも、またわれわれの責務といえましょう。とくに現在、大学や大学院に学ぶ若い諸君には、そのような希望の持てる未来を目指し、地球規模の課題に挑戦的に取り組んでいくことを期待したいと思います。
広域システム科学系は、自然界から人間社会にいたるさまざまなレベルの複雑な事象の解析や問題の解決に、システム的な思考を駆使して総合的・複合的に取り組む、という理念の基に設立され、研究教育活動を展開してきました。広域システム科学とは、広い領域にまたがる対象と手法を総合して、システム論にもとづくアプローチを適用する学問分野といえます。システムという視点から捉える対象には、情報システム、工学システム、社会システムといった人工的なものと、宇宙システム、生命システム、生態系といった自然システム、さらに両者が複合化した環境システムなどが考えられます。その意味で、まさに「学際的」であり「総合的」であることが求められます。そこで育成を目指している人材は、「システム思考」を自分のものとする人です。そのためにはさまざまな方法論を学び駆使できるようにすることと、対象となる自然や社会のシステムについて深い知識を獲得することの両者が必要です。方法論としてシステム理論、数理解析、情報システム学、数理統計学、計画論などを体得し、対象系としてエネルギー、物質、生命、生態、地球系、都市、地域などに関し知識を身につけます。
学際的なアプローチの例として、たとえば進化という概念を考えてみましょう。ダーウィンによる生物の進化論は現代のDNAレベルの遺伝子生物学でも本質的なものとして受け継がれていますが、それと並行して文化社会現象の進化、宇宙の進化、ソフトウェアの進化、など多様な対象の進化プロセスに関し、そこに共通する原理と相違を考えることができます。このような見方とそれにもとづく新たなアプローチの探求は、まさに広域システム科学系が得意とするところです。
所属する教員の研究分野を説明するために、大きく基礎システム学、情報システム学、自然体系学、複合系計画学という4つの領域に分けていますが、各自の領域が固定的なものというわけではなく、また複数の領域にまたがった仕事をしている人が少なくありません。まだ確立した分野とはいえない広域システム科学ですが、教員と大学院生とが協同でその理念をより強固にし、今後さらに実践的な成果をあげていくべき分野といえるでしょう。