東京大学大学院総合文化研究科
広域システム科学系

大講座のご紹介

広域システム科学系は,さまざまな具体的問題をシステムとして捉え,その構造,機能,動態,進化,さらには管理を対象とします.本系を構成するのは,システム論,情報科学,図形科学,宇宙地球科学,原子分子物理学,地球化学,生態生物学,人文地理学,科学技術計画学などさまざまな領域にまたがった専門を持つ教員ですが,それぞれ,各分野に固有の分析的方法論を深めると同時に,それらをシステム論的な視点から総合化しようとする研究アプローチを持っています.具体的には,制御や最適化などを扱う数理システム,さまざまな物質や多様な生命が複合的に介在する自然システム,人間とコンピュータが絡み合う情報処理システム,人間・社会環境システム,都市・地域システム,科学技術システムなど,広範な領域と階層におよぶシステムを扱います.こうした目標のために,広域システム科学系には次の4つの大講座が置かれています。

各大講座については広域科学専攻年報をご覧ください。

基礎システム学大講座

システム概念と方法論の基礎を展開する

			自然の諸階層にわたって現れる非線形現象および非線形システム
			を,様々な角度から解明することを目指している.
			最近の研究内容は次のようなものである.
			まず宇宙に関連して,(1)太陽,恒星,降着円盤から吹き出す風の
			駆動機構の磁気流体数値シミュレーションを用いた解析.太陽- 惑星
			系の形成や進化に上記の天体風,円盤風が担う役割の研究.(2)超新
			星爆発や新星現象のメカニズム,恒星や連星系の進化計算などの研究.
			(3)中性子星など回転星の構造や不安定性.(4)ブラックホールによる
			星の潮汐破壊現象.(5)赤外線による宇宙観測(原始星や原始銀河の衛
			星による観測)およびその検出器の開発がなされている.
			また,人工システムでは,計算機中に人工世界を構築して自己複製
			機構の発生と進化,アルゴリズムとデータの共進化,カオスと協調性
			の進化,カオスの多様性の維持,ジレンマゲームにおける戦略の進化
			などが研究されている.その他にも,ポジトロニウムと呼ばれる,電
			子と陽電子が対になった原子の実験的研究,グラフ,マトロイド,凸
			幾何などの離散数学や,組み合わせ最適化アルゴリズムと生物情報学
			の研究といった研究も行なわれている.

情報システム学大講座

人間を含めた情報処理システムを展開する

			人間自身の情報処理を対象とした認知科学的な研究から,コン
			ピュータそのものを扱う計算機科学的な研究まで,システムと情報と
			いう観点から幅の広い研究と教育を行なう.また他の大講座と協力し
			て各種複合システムのシミュレーション・評価などの理論的考察と展
			開を目指す.研究内容は以下のとおり.
			(1) 情報(information)と計算(computing)のモデルに関する研究
			情報モデルの比較研究と情報構造の特徴づけ及び部分空間分類.形
			状のモデル化,とくに形状位相表現や曲面処理技術.画像情報の処理.
			(2) 情報処理システムの計算機構,ハードウェア,ソフトウェアおよ
			び分野適合な利用技術に関する研究.コンピュータネットワーク.
			(3) 人間コンピュータの複合系としての情報処理システムの研究
			立体形状の線画表示.抽象情報の図化と例示による写像記述方式.
			問題解決と発想を支援するシステム.情報処理システムにおける人間
			の負担.
			(4) 情報と人間に関する研究
			人間の推論・問題解決・学習・発想などの情報処理プロセスの認知
			科学的研究.類推とアブダクションによる仮説形成.乳幼児における
			発達メカニズムに関する研究.科学論・システム論.技術史.人間の
			感性に関わる情報の計量化とその応用.錯覚を利用した情報提示.機
			械(コンピュータ)によって人間が賢くなるための研究.脳機能の情報
			科学的モデルに関する研究.
			(5) 人工知能の研究
			探索・制約充足・組み合わせ最適化問題に関する研究.進化論的計
			算手法.ロボット等の自律システムにおける自動行動計画.ゲーム木
			探索.評価関数の機械学習.

自然体系学大講座

自然界の把握と体系化をする

			自然界に存在する多種多様なシステムを対象として,個別科学に立
			ちながら,その枠を越えてシステムとしての仕組みと挙動を解明し,
			人間・社会にまで関係するものを含めてその管理・制御を考究する.
			ここでいう自然界のシステムには,物質的・地球的・生命的・生態的
			なものを含む.この大講座は以下の4 つの研究グループから構成され
			ている.
			地球変遷研究グループ:地殻・マントル・核など,地球の層構造を
			形造る部分の進化とそれらの相互作用,また,生物の進化との相互作
			用を追求し,システムとしての地球変遷を研究する.
			物質・エネルギー循環研究グループ:地球表層における物質移動を
			大気圏・水圏・堆積圏・生物圏の間の循環と捉え,その過程でどのよ
			うな素過程が各物質の移動を支配するかを解析する.また,人類活動
			がそれらにどのようなインパクトを与えつつあるかの分析をもとに,
			地球表層の将来の環境を予測し,人類の生存環境の最適化を目指す研
			究を進めている.
			生物社会学研究グループ:動植物に見られるさまざまな生物社会の
			実態と,それらの進化プロセスを明らかにし,さらにその系統進化を
			統一的に理解する理論の構築を目指している.
			生態システム研究グループ:植物の光合成による物質生産や動物の
			資源利用,個体群のダイナミクスと種間相互作用,生物群集と生態系
			の構造と機能,生態ダイナミクスと進化ダイナミクスの相互関係,生
			ミジンコの形態にみられる表現型可塑性 態システムと社会経済システムの相互連環などを研究している.

複合系計画学大講座

人間・社会システム及び複合的問題を解明する

			人間・社会と自然を対象に含む複合的な系を計画主体の視点から研
			究する.都市,生活空間,環境,資源・エネルギー,科学技術政策等,
			人文社会科学,自然科学,工学の境界領域に横たわる,さまざまな複
			合的課題の解明を目的としている.各領域固有の方法論のほかに,シ
			ステム論,設計論,戦略論,経営論等の計画学の方法論を用いる.具
			体的な研究内容の例は次の通りである.
			○地域間所得再分配のメカニズムとその変容に関する実証研究
			○地域データ分析等による都市住民の生活活動の時空間構造や企業及
			び住民の情報行動の空間性の解析に関する実証的研究
			○立地論に基づく経済地理学の理論的研究及び産業立地と地域経済に
			関する実証的研究
			○農業土地利用における環境と人間の関係に関する政治生態学的研究
			○環境中の種々の元素の自然な分布と挙動に対する人間活動の影響に
			関する分析化学的立場からの研究
			○人間と空間環境との関係に関する研究
			○建築設計における空間構成に関する設計システム論の立場からの理
			論的研究
			○科学技術社会論の視点から科学技術と社会との接点で発生する諸問
			題,公共空間の意志決定に関する課題の研究
			○認知科学と組織知能論の視点から,人間や人間組織の創造的/知的
			活動に関する研究